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赌注(日文版)-第2部分

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する者、生徒達は放課後を目の前にして落ち着かない様子である。
 その中でただ一人、膝の上でぎゅっと拳を握り必死の形相をしている生徒がいた。
 その生徒の名前は深鷺(みさぎ)ちひろ。生まれて十六回目のバレンタインのこの日、初めて男の子にチョコレ趣蚨嗓褂靡猡颏筏皮俊¥筏筏猡Δ工把¥我蝗栅Kわろうとしているのに、いまだチョコの箱は彼女のポケットに収まっている。
 このままでは「賭け」に負けてしまう。
 深鷺は日直の終礼の声を聞きながら、決心を固めていた。

 深鷺ちひろ、十六歳。天は二物も三物も与えた、とはこの少女にぴったりの言い回しである。くっきりした二重の目とすっと通った鼻筋、ふっくらした赤い唇、幼い頃から誰もが認める美少女だ。そして天性の歌声を持ち、今は軽音部でバンドのボ爰妤咯‘として活躍している。しかしそれを鼻にかけることもなく、さばさばとした性格で同性からも異性からも好かれる人気者。
 そんな彼女は高校に入ってある同級生の男子に恋をした。相手の名は蜂屋貴彦。その顔は神がその技術を駆使して作り上げたとしか思えないほどの完成された造形美を持っている。しかし本人はそれに無頓着なようで、いくつもの愛の告白を「恋がわからないから」という理由で断っている。深鷺は彼の容姿はもちろんだが、その素朴な性伲撕韦瑜耆扦欷皮い搿
 そしてやって来たのが年に一度のバレンタインデAx理だの本命だの自分に御褒美だの、いろんな意味のチョコが日本を飛び交う日だ。深鷺が貴彦に贈るチョコに込めた意味は「お礼」。昨年のクリスマスに自分のライブに来て貰ったお礼の代わりとして渡すつもりだった。
 もちろん愛の告白をしたいところだが、あっさり断られるのはわかりきっている。それにせっかく友人の位置まで近づいたのだからその立場をふいにしたくはなかった。

 今朝登校してから、深鷺は教室前の廊下で彼が来るのを待っていた。貴彦が一人で歩いてきたのでチャンスを逃すまいと彼女は一歩出ようとした、そのときである。
「おはよ、貴彦」
 そう言って小走りで後を追ってきたのは彼の友人、相馬広夢だった。百八十センチはありそうな長身で、漆误姢却笕摔婴夸劋つ郡膜虺证盲皮い搿趬簸Xく貴彦の肩に手をかけると、貴彦も笑顔で彼に挨拶を返した。そして二人は教室に向かって歩いてきた。
「あ、深鷺、おはよう」
 貴彦が彼女に気づいて声をかけた。深鷺はさっとチョコの箱をポケットへ仕舞い「おはよう」と返す。照れ隠しに作り笑いを見せた。
 広夢は彼女に微笑み、先に教室に入った。と思ったらその長い足が貴彦の膝裏を蹴る。バランスを崩した貴彦は「うわっ」と声を漏らしてドアに頭をぶつけた。
「何するんだよ、朝っぱらから」
「ぼけっとしてるから目を覚ましてやったんだよ」
 けたけた笑う広夢の後を貴彦が追う。じゃれ合う二人の後に続きながら、深鷺は軽くため息をついた。
 一時間目の授業が終わった後、深鷺は広夢に「ちょっと」と声をかけられ、二人は西の端にある階段の踊り場まで行った。そこで広夢は驚くべきことを提案してきたのである。
「深鷺、今日は貴彦に渡すつもり?」
 広夢は数歩離れた場所からそう話しかけてきた。深鷺は以前貴彦への恋心から愚かな事件を起こしたことがあり、それを知っている広夢にはまだ負い目の気持ちを持っていた。
「渡すって?」
「もちろん、バレンタインのチョコだよ」
「答えないと駄目?」
「……それがもう答えだな」
 広夢の鋭さは以前の事件でよくわかっている。深鷺は隠しても無駄だと腹をくくった。
「相馬くんの言う通りよ、悪い?」
「悪いことなんかないさ。照れくさかったら代わりに渡してやろうか」
「冗談。それくらい、自分でできるわよ」
「それはどうかな」
 からかうようにそう言うと、広夢はふっと口の端をあげた。深鷺は心中を覗かれているようで落ち着かなくなる。彼の言うとおり、貴彦に直接渡せるかどうか自信がなかったのだ。
 深鷺が眉根にしわを寄せると、広夢は気楽な口眨茄预盲俊
「なあ、深鷺。俺と賭けをしないか?」
「賭け? なにそれ」
「深鷺が今日中にチョコを渡せたらあんたの勝ち。渡せなかったら負けだ」
「……何を賭けるの?」
「勝ったらこれをやるよ」
 そう言って広夢は制服のポケットから一枚の写真を取りだし、深鷺に見せた。それに写っている姿を彼女が凝視しようとしたところ、広夢はそれを再びポケットにしまい込む。その写真は貴彦の寝姿だった。
「合宿の時、ふざけて撮った一枚。本人は全部回収したと思ってるようだけど」
 深鷺は今見たものが頭に焼き付いてすぐに口を開けなかった。写っていたのは意中の彼が目を椋Г袱茻o防備に眠る顔。
「どう?」
「わたしが、負けたら?」
「そうだな……今日から一週間、貴彦と口をきくなっていうのは?」
「それ、相馬くんに何か得になるの?」
「別に。ただ、面白そうだから」
 広夢はにやにや笑いで深鷺の顔を見る。からかわれているとわかっているものの、深鷺はさっきの写真をどうしても手に入れたかった。
「どうだ? 賭けに仱盲皮撙毪俊
 その言葉にこくっと頷く。
「じゃあ期限は今日中、必ず校内で渡すこと。健闘を祈るぜ」
 ふふっと笑って片手をズボンのポケットに突っ込み、広夢は教室へと戻って行った。
 そうして深鷺ちひろの波乱万丈の一日が始まった。

 授業が終わるたびに深鷺は貴彦の席へ行こうとした。しかしその度になんやかんやと邪魔が入る。
 二時間目の後は他のクラスの女子が集団で押しかけてきた。貴彦はあれよあれよという間に黄色い声に包まれ、一人ひとりにぺこぺこと頭を下げていた。そして女子たちは嵐のように去っていった。後に残ったのは色とりどりの包装紙に包まれたチョコレ趣蜗洹1摔位紊悉纤宋铯蛑盲堕gがないほどであった。
 三時間目の後、今度こそと意を決して立ち上がった深鷺はいきなり男子生徒に話しかけられた。相手は犬飼茅(かや)。級友でもあり演劇部員でもある彼は、深鷺より数センチ背が低く、顔も子どもっぽくて遠目には女の子に見えないこともない。彼もまた以前の事件の関係者で、深鷺にとっては頭の上がらない存在である。
「深鷺、ちょっと頼みがあるんだけどいい?」
「なに?」
「今度演じる役でさ、ギタ蚴工铯胜悚い堡胜い螭馈¥猡沥恧螭郅螭趣藦帳螭袱悚胜普瘠辘坤堡伞¥坤椁い恧い斫踏à皮猡椁い郡盲啤
「……今日じゃないと駄目かな?」
「ごめん、明日からいろいろ練習とか始まるし」
 犬飼は手を合わせて懇願している。そこまで頼まれると断れない。深鷺は心の中でため息をつきつつも、笑顔で答えた。
「わかった。じゃあうちの部室で放課後練習しよ」
「あのさ、昼休みでもいい?」
「……うん」
「やった! じゃ、よろしくな。ほんと感謝するよ」
 犬飼は嬉しそうににっこりし、深鷺の肩をぽんぽんと叩いた。そういう無邪気なところは可愛いのだが、少し大袈裟なようにも見える。彼の得意の演技も入っているのかなと深鷺は思った。
 授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、深鷺はふと後ろの席を見た。貴彦は彼女の視線に気づくこともなく教科書を用意している。さらに後方にいる広夢と目が合った。彼は口だけでにやりと笑う。深鷺はむっとして前を向いた。あの笑いは完全に馬鹿にしているとしか思えない。さっきの彼の言葉を思い出した。
 ――それはどうかな
 絶対に負けないんだからと深鷺は士気を高めるのであった。

 昼休みが始まると深鷺はすぐに立ち上がり後方を振り向いた。そして他の生徒たちをかき分けて貴彦の席へと向かおうとしたとき、後ろから腕をぐいっと引っ張られた。顔だけそちらへ向けると、にっこり笑っている犬飼がそこにいる。
「さ、行こうぜ、深鷺」
「え、あの、ちょっと……」
「時間が惜しいんだ。弁当食べながらいろいろ聞きたいし」
 彼の頼みを承諾したのだから仕方がない。それでもほんのちょっと時間をもらって貴彦のところへ行きたかった。そして深鷺が再び目を向けたところ、貴彦は広夢と連れだって教室から出るところだった。
「あ……」
 声をかける間もなく二人は出て行ってしまった。廊下へ出る瞬間、広夢がちらりとこちらを見たことに深鷺は気づく。あれは完全に妨害しているに摺い胜ぁ
「どうした?」
「ううん、じゃあ部室に行こう」
 機嫌の良い犬飼とは対照的に、深鷺はがっくりと肩を落としながら軽音部の部室へ向かうのだった。

「……ピックは親指と人差し指ではさむように持って、手首のスナップをきかせて鳴らすの」
「うんうん」
 五階の軽音部部室、深鷺は約束どおり犬飼にギタ螐帳饯蚪踏à皮い俊I铤槫攻去楗氓驻蚣绀摔窑盲饱咯‘を持ちながら説明を始めると、犬飼は目をきらきらさせ興味深そうに聞いていた。
「深鷺、何か弾いてみてくれよ」
「うん、じゃちょっとだけ」
 深鷺はギタ去ⅴ螗驻颔畅‘ドでつなぐ。あまり大きい音が出ないように眨潳贰⒆鳏盲郡肖辘吻违ぅ螗去恧驈帳い坡劋护俊%畅‘ドを押さえる左手とピックを握る右手の両指が目まぐるしく動いた。
「こんな感じ」
「……すっげⅳ盲ぉ‘よ、深鷺」
 犬飼は睿Г蛉兢幛瓢幛沥搿I铤槫稀袱饯Γ俊工趣悉摔唷0幛椁欷茞櫎莩证沥悉筏胜ぁ
 次は犬飼にギタ虺证郡弧ⅳい恧い砘镜膜胜长趣蚪踏à皮妞I铤槫握h明を彼は素直に聞いた。あっという間に予鈴が鳴り、犬飼は壁の時計を見上げる。
「あれ、もうこんな時間」
「終わろっか。これくらいで大丈夫?」
「ああ、サンキュな」
「うん、犬飼くんは呑み込みが早くて良かった」
 深鷺にギタ蚍丹筏胜椤⑷暏衔⑿Δ唷¥ⅳ工挨苏骖啢摔胜盲俊
「またライブやるの?」
「う蟆⒔瘠韦趣长恧衔炊ā
「そっか。実はまだ一回も聴いたことなくて。文化祭はうちも舞台やるから忙しいし」
 犬飼は両手をあげて伸びをした。
「今度ライブやるとき、俺にも教えて。都合良ければ行きたい」
「うん、ありがと。演劇部の公演も観たいな」
 深鷺がそう言うと、犬飼はちょっとばつが悪そうな顔をした。
「……次のは無理、ごめん。市内の演劇部が集まってやる舞台で、平日なんだ」
「そっか、残念」

 二人が教室に戻るとちょうど授業の開始を告げる本鈴が鳴り響いた。犬飼とのギタ毩暏蠘Sしかったが、またも機会を逃したと深鷺はがっかりする。しかしまだ一日は終わっていない。次こそ、と心に誓いながら教科書を開いて頭を切り換えるのであった。

バレンタインの賭け(二)
 チャイムが鳴り五時間目の授業が終わった。深鷺は席を立ちすたすたと貴彦の席へと歩いていった。今回は何も邪魔が入らず少し拍子抜けする。しかし彼の目前に立つと否が応でも深鷺の心臓が高鳴った。
 貴彦が彼女に気づいて顔を上げる。
「なに?」
 にっこりと微笑むその顔を見ると、深鷺の視界は一気に鮮明になる。世界に自分と彼だけだったらいい、そんな夢想をしそうになる自分に喝を入れた。
「あ、あ、あのね」
「うん」
 ここでポケットから箱を出して、そう思うものの手が緊張で動かなかった。
「その……今度、CD持ってきていい?」
「また何か貸してくれるの?」
 なに言い出すのと自分に突っ込みを入れながら、深鷺はそのまま話を続けた。
「うん、ジャズなんだけどどうかな」
「じゃ、お願い。深鷺の貸してくれるものはハズレなしだから」
「それじゃ、明日ね」
 深鷺は軽く手を振って貴彦の席から離れた。そして自分の席に着く前に軽くはあっとため息をつく。ふと後ろを見やると、教室の隅にいる広夢の姿が目に入った。彼は片手で腹を押さえ笑いを噛み殺している。悔しくてきっと広夢を睨みつけ椅子に座った。

 そしてもうすぐホ啷氅‘ムが終わろうとしている。深鷺にとってこの日最後のチャンスだ。これを逃すと広夢との賭けに負けてしまう。
 終礼を済ませると生徒達はがやがやとざわめきながら教室から出始める。掃除当番の生徒は用具入れに集まってゆく。深鷺が後ろを向くと、貴彦と広夢が廊下へ出て行こうとしていた。深鷺はあわてて後を追いかけるが、他の生徒に進路を阻まれてなかなか進めない。彼女はさらに焦り出す。そしてお腹の底から声を絞り出して叫んだ。
「蜂屋くん、待って!」
 深鷺の声は教室の隅々まで響いた。生徒達は一瞬しいんとなり、何事かと彼女に視線が集まる。貴彦も立ち止まり深鷺を見つめた。
 しかしそんな周りの様子に気づくこともなく、深鷺はつかつか歩いて貴彦の目の前まで近づいた。他の生徒達は拢龝我黄韦搐趣笥窑吮埭堡俊
深鷺の頭にあるのは一日中ポケットに入れっぱなしだったチョコレ趣蜗浃韦长趣坤薄=瘛ⅳ饯蜗浃颏浃盲热·瓿訾工长趣扦俊
「あの、これ……」
「えっ、俺に?」
 深鷺が箱を差し出すと貴彦の睿Г酥欷丹筏俊¥饯欷蛞姢粕铤槫衔窑朔丹搿
「ち、摺Δ巍¥长欷悉汀⒘x理チョコだから。それ以外なんでもないから!」
「ああ、そう。……どうもありがとう」
 貴彦は少しがっかりした様子を見せる。その伏した目にかかる長い睫に一瞬見惚れ、それから深鷺は貴彦の横をすり抜けるようにして慌てて教室を出て行った。
 廊下に出るとにやにやと笑いながら広夢が待っていた。
「賭けはあんたの勝ち、おめでとう」
 そう言って広夢は深鷺のポケットになにかを滑り込ませた。深鷺は顔を真っ赤にさせながらくるっと踵を返し、廊下を早歩きで去っていった。

 いつものように新聞部の部室で貴彦と広夢は雑談をしていた。ヒ咯‘が温まってきたころ、こんこんとドアをノックする音が聞こえる。貴彦が椅子から立ち上がってドアを開けるとそこには思いもよらない人物がいた。
「犬飼、なん
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